大混乱するインドの日常生活 突然の「高額」紙幣廃止、思わぬショック療法に消費者が悲鳴

大混乱するインドの日常生活
突然の「高額」紙幣廃止、思わぬショック療法に消費者が悲鳴


2016.11.17(木) Financial Times

(英フィナンシャル・タイムズ紙 2016年11月15日付)

インド、高額紙幣の流通を突如停止 腐敗対策で
インドの首都ニューデリーの自宅で500ルピーと1000ルピーの紙幣を手にする住民(2016年11月8日撮影)。(c)AFP/PRAKASH SINGH〔AFPBB News〕
 携帯電話が鳴ったのは、ちょうど私が南インドの軽食スタンドのカウンターに500ルピー札を置いたときのことだった。


「モディ(首相)のテレビ演説を見ている?」。同僚が興奮した様子でこう言ってきた。「500ルピー札と1000ルピー札を全部廃止するみたいだよ」。こうして、私は自分の家族――および12億人のインド人――がまだ抜け出すことのできない大混乱に放り込まれた。

 ほかの経済国も、主に違法な活動に使われていると結論付け、高額紙幣を段階的に廃止している。米国は数十年前に500ドル札と1000ドル札の印刷をやめたし、欧州中央銀行(ECB)は500ユーロ札を廃止する。

 だが、インドの「高額」紙幣――500ルピーは7.50ドル、1000ルピーは15ドル程度――は、ただの犯罪組織の通貨ではない。金額ベースで、この急成長を遂げる経済国で流通している現金の86%を占めている。これらの紙幣は日常生活の通貨であり、メイドや運転手、警備員、建設作業員、タクシーなどにお金を払い、食料品販売で圧倒的に大多数を占める小規模商店から果物や野菜を買うために使われているのだ。

 不法所得や税金がかかっていない「ブラックマネー」の保有者をあぶり出すことを目指し、220万枚の紙幣が先週、一夜にして廃止された。これは、ほとんど前例のない実験だ。このようなショック療法は主に、強烈な危機に見舞われている国で用いられた。第2次世界大戦後のドイツや崩壊直前のソビエト連邦、ジンバブエのようなハイパーインフレに見舞われた経済国などが、その例だ。

 当初、私は心配していなかった。廃止される高額紙幣を現金で500ドル分ほど持っていたが、政府は12月30日までこれら紙幣を銀行に預金することを認めている。もっと大きな心配事は、日常の生活必需品のために使うお金を確保することだった。

 いくつもの鞄と引き出しをあさり、10ルピー札、20ルピー札、50ルピー札、100ルピー札で合計1100ルピーほど見つけた。それに100ルピー分ほどの硬貨も見つけた。これでは、長くは持たない。新鮮な果物や野菜、肉、魚の大半は、規模が小さい非公式な業者から買っており、こうした業者はほとんどクレジットカードを使う設備が備わっていないからだ。

政府の発表を受けて1日銀行が休業された後、10日木曜日に営業が再開されときに、私は小さな袋に「高額」紙幣を入れて、地元の小さな支店に赴いた。支店は普段より多少混んでいて、2つしかない窓口に十数人の客が並んでいた。私は翌日戻ってくることにした。愚かにも、当初のラッシュがもう終わっているだろうと考えたのだ。


 次に、穀物・乾物類を売っている地元の小さな食料品店に行ってみた。すると、店主がまだ古い紙幣を受け入れていることが分かった。ただし、つり銭がないため、500ルピーの倍数で買い物をしなければならなかった。

 この店で2500ルピー使ったが、レンズ豆など、必要なものの多くが品切れだった。必需品をため込むために廃止された紙幣を使う人々によって、豆類と小麦粉、食用油の買い占めが起きていたのだ。

 翌日、開店前に銀行に到着したら、長蛇の列ができていた。裏口を通って店内に入り、廃止された紙幣をいくらか預金し、100ルピー札で1万ルピーを引き出すことができた。私は大得意で銀行を後にした。これで新鮮な牛乳やサヤマメ、パパイヤを買う力は安泰だ。

 週末になると、例の小さな食料品店は古い紙幣を受け付けてくれなかった。政府が運営する生協は受け付けていたが、高額紙幣でバターやしおれたホウレン草を買うには、身分証明書が必要なうえ、つり銭がないために500ルピーの倍数での購入を求められた。以来、銀行とATMの列は長くなる一方だ。

 インド準備銀行(中央銀行)は、有効な貨幣を持っている私たちのような人に、お金をため込まないよう呼びかけている。だが、悪いけれども、私はできる限り思慮深く、貴重な100ルピー札を使うつもりだ。何時間も列に並ばずにもっと現金を手に入れられるのが、いつになるか全く分からないからだ。

 私は200ルピー分のバナナチップスを買うのにデビットカードを使った。300ルピーで娘の髪を切ってもらうために出かけたら、いつもの美容室にはカードを受け付ける設備がないことが分かった。そこでカードを受け付けているよその美容室に行った。

 紙幣不足のせいで、カードを持った中産階級の消費者が、現金以外の支払い方法を受け付ける大規模で正式な企業へと流れる中、現金商売の昔ながらの商店の多くが大打撃を受けている。だが、伝統的な野菜業者が商品を売ってくれるなら、まだ歓迎だ。少なくとも差し当たりは、私は小銭を持っているのだから。

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